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ホメオパシー：その後(1)

5/26の授業で触れた件(おそらく)

助産師さんに浸透している？

乳児に与えるべき薬を投与せず、レメディを投与した結果、子どもが亡くなるということが現実に起きている
レメディは毒にも薬にもならない。しかし、レメディを投与することで、本来投与されるべき薬が投与されなければ、重大なことになりかねない。

ホメオパシー：その後(2)

“The Japan Royal Academy of Homeopathy”が主宰するウェブサイトの掲示板への投稿

ホメオパシー：その後(2)

標準医療を忌避したととれる内容
「好転反応」…典型的な「言い訳」

化粧品や健康食品でも持ち出されることがある

腎臓が悪いのに薬を止めると命にかかわりかねないため、多くの人が現地の児童相談所や医師会、警察などに通報し、主治医の確認が取れた。
本当なら児童虐待と言われても仕方のない内容

親は善意なのだろうけれども

ホメオパシー：その後(2)

一段落した後の、掲示板管理人による投稿
本気で「薬を止めるのはよくない」と言っているかはともかく、推進側にこう言わせたのは重要であろう

“The Japan Royal Academy of Homeopathy”

「2006年9月にロンドンにて開校、日本人の方を対象にしたホメオパシー専門学校です。」
学長：由井寅子氏
ちなみにこの「学校」、オプショナルコースとして

英語コース
東洋医学講座
医学占星術講座
ヨガコース

を設けている

ホメオパシーの問題点

ホメオパシーの「レメディ」は、成分分子が一つも含まれないぐらいに薄めたもの

「効く」わけがない
「効いた」と思うのはプラセボ効果(詳細は以前のスライド)

なので、作用もなければ副作用もない

手順どおり作られたレメディならば

では、「害」はないのか？
問題は、レメディをとることではなく、標準医療を忌避すること

するべきことをしなくなる

疑似科学(ニセ科学)の分類

多くの疑似科学を眺めてみると、「科学のようで、科学でないもの」(たとえば伊勢田哲治『疑似科学と科学の哲学』)と特徴づけられるだろう
客観的な事実関係を争える事象について、客観的な事実(少なくとも事実と考えられていること)とは異なる主張を、あたかも客観的な事実であるかのように言う

「間違っていることがわかっているのに、正しいと主張」

血液型性格判断、『水からの伝言』、ホメオパシーなど

「正しいか間違いかまだわからないのに、正しいと主張」

マイナスイオンと健康、神経神話、いくつかの早期教育など

では、疑似科学の何が問題なのだろうか？

無論、「間違った言説」が広まることは、様々な問題を引き起こすだろうけれども…

EMについて少し

EM=Effective Micro-organisms, 「有用微生物群」
比嘉照夫・琉球大教授(当時)が開発、商品化
環境対策としても、各地（特に九州・沖縄）で使われている
「効能」

「汚水の浄化」「生ごみを肥料に」
パンを焼いたり漬物を漬けたり、洗濯物の劣化防止にも
家畜に飲ませたり、畜舎に散布して悪臭防止
化学物質、放射線物質、農業による環境汚染、水質汚染、大気汚染、酸性雨、炭酸ガス公害、オゾン層の破壊などを解決
健康飲料として！
「末期の肝臓ガンが治った」

「万能」をうたうのが特徴
「いいことだけがあって悪いことがない『本物技術』」（船井幸雄）

EMについての県内の報道をいくつか

『朝日』2006年9月4日付
『長崎新聞』2010年6月9日付
『長崎新聞』2010年3月22日付
『長崎新聞』2010年7月21日付(今日!)

※公開スライドでは記事のコピーは削除しています

実態は・・・

「有用」の意味：人間にとって「いい」か「悪い」か。
研究者による追試：「有用」とされていた菌が見つからなかったり、使ってみても効果が見られなかったりした

例：公開シンポジウム「微生物を利用した農業資材の現状と将来」日本土壌肥料学会（主催）
毒にも薬にもならない？少しぐらいなら影響がある？
いずれにしても、劇的な効果は見られないようである

「長年、EMを扱うなかで、あまりに不思議な現象が起きるので、江本さんの著書『波動時代の序幕』を読んだところ、EMが起こしているのは『波動』ではないか。『波動』という視点を入れなければ説明できないことだと実感しました。」（比嘉照夫、『HADO』2007年11月号、p.8）
「ＥＭさえやっておけば」となるのが最悪

本当にやるべきことから目をそらされてしまう

ホメオパシーと違い、なんらかの微生物は入っている
つまり、使えば、なんらかの影響は出る

人間の役に立つ場合もあるかもしれない
害になる場合もあるかもしれない

河川の富栄養化による汚濁など

ちゃんとした検証が必要(「万能」を言う前に!)
EMの問題点：環境を維持・改善するためにはやるべきことが色々あるのに、「EMさえやっておけば」となりがちなところ

するべきことをしなくなる

疑似科学(ニセ科学)の問題の一つ

「するべきことをしなくなる」

ホメオパシー：標準医療の忌避
EM:地道な環境への取り組みの軽視
血液型性格判断：血液型で相手の性格を決めつけることで、その人自身を見なくなる。他人との関係を血液型に解消することで、問題の本質から目をそらす
『水からの伝言』：言葉を伝えるということ、コミュニケーションをはかるということが、単語そのものに還元されてしまう。人間性の軽視
早期教育：子どもと自分なりのやり方で向き合うことの軽視
少年犯罪の増加という誤認：犯罪が生じる真の原因を探ることから目をそらす。現実社会の誤認

「間違った道」に進むことは、「正しい道」を探ることをやめること→思考停止の道具

無論、「正しい道」は一つとは限らない

「するべきこと」ってなんだろう

科学が教えてくれないこと。

「…個人の尊厳を重んじ、真理と正義を希求し、…」(教育基本法前文)
「…幅広い知識と教養を身に付け、真理を求める態度を養い、…」(同法第二条第一項「教育の目標」)
「…日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであつて、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。」(日本国憲法前文)

我々の「合意」であり、一つの価値観である。

「祈り」の意味

「100匹目の猿」現象

ライアル・ワトソンの作り話

宮崎県・幸島のサルがイモを洗って食べ始め、他のサルがまねをしだした。洗うサルが100匹を越えたとき、大分県・高崎山のサルもイモを洗って食べだした。という話。
物事にはなにか閾値があり、そこを超えると、「場」が発生して伝播する、と主張（参照：「形態形成場」シェルドレイク、「シンクロニシティ」ユング）

「念ずれば通ず」ということで、「ありがとう、愛・感謝と祈りましょう」と江本らがよく使う。

「起こったことは必要、必然、ベスト」「工業化社会の弊害も必要必然だった」（「百匹目の猿ー『思い』が世界を変える」船井幸雄、p.110）
「肯定思考が健全な生き方をつくる」（同、p.126）

「ニューエイジ思想」

「祈り」と世界

みんなが祈れば/願えば/望めば世界は変わるか？

みんなが世界平和を願えば世界は平和になるのか？

「誰が」「何が」世界を変えるのか？

「ありがとう」は誰が解釈するのか？

価値判断を下すのは誰か？
「祈り」は無意味なのか？誰が意味を与えるのか？
科学は教えてくれない。

参考にはなる。

「歯を磨きなさい」「やだ」「磨かないと虫歯になるよ」「いいもん」「虫歯になると痛いよ」「…わかった」
「痛いのは嫌だ」という価値判断が、「面倒な歯磨きは嫌だ」という価値判断に優先した…科学的思考(事実関係)を参考にはしたが、最終的な決断は価値判断である

事実を学べば判断も変わり得る

個人的な意味づけ(人によって様々だろう)

犠牲者や遺族の方々に思いをはせ、
なぜ原爆が落とされたかを考えつつ、
自分の研究との関係を思い出し、

核物理抜きに天文学はできない。星のエネルギー源など

未来に向けて、自分はどうするのかを考えるきっかけとする

決して「祈ることそのもの」が核兵器を無くすとは思わないが、そのために何をするのか、自分の心を整理する機会である
方法も目的も私個人の判断。人によって違っていい。

科学の意味

科学には限界がある
しかし、科学によって、とても多くのことがわかってきた
科学を「どう活かすか」を考えなければならない

それは、我々の社会が下す「判断」

そこを見極められないと、他人や「もの」に判断を委ねることになる

水に聞いたり、血液型に頼ったり…

科学を盲信せず理解することが、人間の役割を明確にし、人間性を尊重する土台となるのではないか？
我々は「あやふやな世界」に生きている。自律的に判断することは、大変なこと。しかし、「主体性の放棄」という「魅力的な解決」を選択していいのだろうか？

もちろん、全部自分で判断していては、実際問題やっていけませんが…

疑似科学を学ぶ意味

単に、世の中にはびこる「間違い」を知る、というだけではない
「間違え方」を深く理解すれば、今後、「大きな間違い」を避けられるのではないか？

授業で取り上げたのは、その意味で「練習問題」。世の中には、判断に迷う厄介な疑似科学がまだまだいろいろある

疑似科学を学ぶことは、科学の限界と存在意義を学ぶこと
それは、人間の尊厳を理解することでもあるかもしれない