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湿度計方程式

ガーゼを通過した気体は、蒸発に伴う 潜熱を奪われるため温度が $T_{d}$ から$T_{w}$ に下がる。温度低下に伴う空 気の単位体積当たりのエネルギーは、等圧変化とみなせるので、
\begin{displaymath}
\rho_{d} C_{p}(T_{d}-T_{w})
\end{displaymath} (25)

と書ける。ここで$\rho_{d}$は乾燥空気の質量密度である。一方、単位質量の水 が水蒸気として蒸発する際に奪う熱量 $L=2.50\times 10^{6}$ [J kg$^{-1}$]を 用いると、単位体積当たりに奪う熱量は
\begin{displaymath}
(\rho_{v,s}-\rho_{v})L
\end{displaymath} (26)

となる。ここで $\rho_{v}, \rho_{v,s}$は、それぞれ水蒸気の質量密度、飽和水 蒸気の質量密度である(つまり、ガーゼを通って飽和した水蒸気が、蒸発して周 囲の蒸気圧になるまでに奪う熱量を求めたことになる)。これらは等しい筈なの で、
\begin{displaymath}
(\rho_{v,s}-\rho_{v})L=\rho_{d} C_{p}(T_{d}-T_{w})
\end{displaymath} (27)

という等式が成り立たねばならない。

一方、乾燥空気と水蒸気の混合気体の圧力を$P$とし、水蒸気の分圧を$e$とする と、それぞれが理想気体の状態方程式に従うので、

$\displaystyle e$ $\textstyle =$ $\displaystyle \rho_{v}R_{v}T$ (28)
$\displaystyle P-e$ $\textstyle =$ $\displaystyle \rho_{d}R_{d}T$ (29)

である。ここで気体定数の定義に戻って考えると、
\begin{displaymath}
\frac{R_{d}}{R_{v}}=\frac{M_{v}}{M_{d}}\equiv\varepsilon=0.622
\end{displaymath} (30)

となることがわかる。二つの状態方程式の比を取ると、
\begin{displaymath}
\frac{e}{P-e}=\frac{\rho_{v}}{\rho_{d}}\frac{R_{v}}{R_{d}}=\frac{1}{\varepsilon}\frac{\rho_{v}}{\rho_{d}}
\end{displaymath} (31)

であるが、$e/P<0.04$であるので、左辺の分母は$P-e\simeq P$と近似して構わ ない。よって、
\begin{displaymath}
\frac{e}{P}=\frac{1}{\varepsilon}\frac{\rho_{v}}{\rho_{d}}
\end{displaymath} (32)

となる。同様に、飽和水蒸気の分圧を$e_{s}$とすると、
\begin{displaymath}
\frac{e_{s}}{P}=\frac{1}{\varepsilon}\frac{\rho_{v,s}}{\rho_{d}}
\end{displaymath} (33)

となる。

これを式(27)に代入すると、

\begin{displaymath}
e=e_{s}-\frac{C_{p}}{\varepsilon L}P(T_{d}-T_{w})=\frac{C_{p}}{\varepsilon L}P(t_{d}-t_{w})
\end{displaymath} (34)

となる。なお、最後の等式は、温度を絶対温度$T$から摂氏$t$への変形であるが、 基準点の変更は差を取っているのでキャンセルする。

実際の測定では、ガーゼからの水の蒸発に伴う湿度の上昇による誤差やガーゼ自 体の汚れ、測定者による温度上昇、水の純度、等々、様々な誤差要因がある。そ こで、上の式を

\begin{displaymath}
e=e_{s}-AP(t_{d}-t_{w})
\end{displaymath} (35)

と一般化し、実験により$A$を求めている(湿度計方程式、乾湿計公式、あるいは Sprungの式)。JIS規格では湿球が氷結していない時は $A=6.62\times 10^{-4}$ K$^{-1}$となっており、理論式とは若干ズレている。ただし、国際的には$A$の 値はまだ確定していない[6]。


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NAGASHIMA Masahiro
平成20年5月17日

since 24 April 2003