執筆者は、安部俊二(政治学)、上薗恒太郎(教育学、道徳教育)、小西祐馬(児童福祉)、長島雅裕(天文学)、古谷吉男(材料物性、技術教育)、武藤浩二(電気電子工学)、です。「疑似科学」というと「理系の話」というイメージを強くお持ちの方も多いかと思いますが、このように、人文・社会科学を含めた幅広いメンバーで作成しました。
なにぶん初めての試みですので、不十分な点もいろいろあるかと思います。なんらかの形で感想をお寄せいただけますと幸いです。また、全国の大学で、より発展した形で、似たような取り組みがなされるといいなと思っています。
このパンフレットを作成する中で、執筆者から異口同音に出された声が、「このスペースでわかりやすく書くのは難しい」ということでした。私(長島)自身は「情報社会と科学」という授業でニセ科学を扱ってもいるのですが(こちらを参照してください)、それでもこの少ない字数でわかりやすく書くのは苦労しました。もしかしたら、必要な部分を削り、不必要な部分だけが冗長に書かれているかもしれません。自分が理解することと、わかりやすく「伝える」ということは全く別のことであるということを、改めて感じています。不十分な点は、今後に活かしていきたいと考えています。
限られた予算と人数で、伝えたかったことはかなり削られました。特にオカルトチックなものはほとんど入っていません(「水からの伝言」で少し触れられている程度でしょうか)。「百匹目の猿」とか「シンクロニシティ」とか、(広い意味での)教育でしばしば出てくるものも取り上げたかったのですが、それはまた別の機会になんとかしたいと思います。また、環境教育でしばしば問題視されるEMも、最後の座談会で軽く触れたにとどまりました。これもいずれなんとかしたいと思っています。
このパンフレットで、私としてはあまり得意でない脳や健康・医療の話にも挑戦してみました。血液型と性格のように、命題がピンポイントで定まる話とは異なり、話題が多岐に渡ります。ちょっと焦点がボケたかもしれません。また取り上げるべきものも色々漏れたかと思います。ご指摘いただけると幸いです。
個人的に気に入っているのは、このタイトルです。ある意味あきらめの境地に達したとも言えるでしょうが、残念ながらニセ科学(疑似科学)は今後も生まれてくるでしょう。科学が未完の体系である以上、また人が生きる上で将来への不安が必ずある以上、あの手この手で新たなニセ科学が生まれてくると思います。そこにどういう対策を立てるかは決して自明なことではありません。ひたすら悩み、できることをやるしかないのかもしれません。しかし、裏を返せば「できることはある」わけです。最後の座談会から、そのあたりの悩みも読み取っていただければと思います。
一つだけ残念なのは、このタイトルを考えたのが私ではない、ということでしょうか(笑)。
このパンフレットが、皆様のお役に立つことを願っております。
なお、このパンフレット発行までには、様々な方のご協力をいただいております。2008年度の教育学部研究企画推進委員会が募集した学部内共同研究テーマとして提案したことがきっかけでしたが、委員の皆さんを中心に興味を持っていただき、ここまで来ることができました。特に、川口敦子先生(現・三重大学)には委員として委員会内でいろいろとお話をしていただいたようで、その御尽力も大きかったと思います。原稿も一部書いていただこうと思っていたのですが、途中で異動されたため残念ながらかないませんでした。この場を借りて、川口先生をはじめ2008年度・2009年度研究企画推進委員会の皆さん、その他励ましていただいた皆さんにお礼を申し上げます。ありがとうございました。
また、限られた紙面の都合上、今回はほとんどネット上の情報については挙げることができませんでした。しかし、私がこれまで得た知識の多くは、ブログなどを通じて様々な問題を紹介・解明・論評していただいている方々に負うています。あまりにも多くここでは挙げきれませんが(一部は上記の「情報社会と科学」の中で「もっと勉強するための文献」の中に挙げています)、皆さんの御努力をこのような形で(不十分ではあれ)まとめることができたことは、ささやかながら世の中への貢献に寄与できたかなと考えております。ありがとうございました。
2010.4.3 公開
4月もあっというまに過ぎてしまいましたが、いかがお過ごしでしょうか。
全学(一般教養)での授業「疑似科学とのつきあいかた」もおかげさまで180名近い学生が受講することになりました。 残念ながら、一部受講を断らねばならなかったほどで、嬉しい悲鳴です。
4月には、最初のオリエンテーションと私が担当した分2回を行いました。こちらのページをご覧ください。スライドも公開しています(自分の分についてはすべて公開する予定です。ってあと一回だけですが)。
なお4/28の回(第3回)については、授業時に使用したものに一部修正を加えています。舌足らずなところを加筆したのと、マンガを載せたページを削除しています。…どんなマンガって?藤子・F・不二雄の『エスパー魔美』。予知能力のところで、「大予言者あらわる」から予言のタネあかしのところを、UFOのところで、「未確認飛行物体!?」のグラスワークの説明のところを使いました。それぞれ実に素晴しい説明がされており、グダグダと文章を連ねるよりはよっぽどわかりやすいと思います。
第3回は、思うところありまして、911陰謀論も取り上げてみました。残念ながら時間が押してしまって(UFO話は楽しくてついつい余計なことまで話してしまうんですよね)、あまり深くはつっこめなかったのですが、話の流れとしては、「信じてしまう心」のありようが統一的に描かれ、浮き彫りにできたかな、と思います。また科学的思考のためには「要素還元」と「総合」の二つの流れを正しく組み合わせないといけませんが、間違った「総合」に強くとらわれると「要素」の解釈にも影響を与えるのだなあ、と思います。
マイクル・シャーマーの『なぜ人はニセ科学を信じるのか』にも、相当の分量を割いて「歴史と偽史」について述べられています(文庫版だとII巻のほう)。ホロコースト否定論を扱ったものですが、その背景には強固な陰謀論的発想があります。特に「反ユダヤ」的な思想が強いわけですが、日本における911陰謀論の蔓延に関係の強い「マシュー君」も、その影響が見られます(詳細は授業スライドをご覧ください)。ニューエイジや「スピリチュアル」の蔓延と絡んで、なかなか厄介な問題だと思います。
余談ですが、ホロコースト否定論と同様の「偽史」の問題は、日本では「南京事件」が中心になるでしょう。写真の取り扱いなどアポロ陰謀論とそっくりですが、発想自体も「〇〇の陰謀」だの「〇〇による情報戦」だのホロコースト否定論ととてもよく似ています。ニセ科学論という観点から南京事件否定論を見る、というテーマも、いつか取り組んでみたいなと思っています。
ちなみに授業の最初にスプーン曲げをやったのですが、授業の感想で「超能力が使えるのかとびっくりしました!」的な感想がいくつも(笑)。もし、ニセ科学に関するような授業や講演をされる際には、オススメです。
since 24 April 2003