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準解析的手法による銀河形成:UV背景輻射の効果

長島 雅裕、郷田 直輝 (阪大理)、すぎ浦維勝 (京大理)

  1. はじめに
  2. 銀河形成問題は、近年のHSTやKECKなどによる観測手段のめざましい進歩によ り、銀河の誕生と進化に関する新たな情報を我々にもたらし、新たな展開を見 せている。このような状況のもとで、理論面での銀河形成に関する理解を宇宙 論的構造形成論の枠組の中ですすめることが現在特に重要になっている。今回 は、Cole et al.(1994)の準解析的モデルに基づき、UV背景輻射がガスをイオ ン化する効果を取り入れた計算を行った。

    この準解析的手法は、所謂数値シミュレーションの様に重力や流体の素過程を 同時に全部解くのではなく、ダークハローの形成史やガスの冷却、星形成など を個々の解を用いて計算するもので、短い計算時間で光度関数などの観測量を 計算することができる。ここで注意すべきことは、ハローの形成史は初期の密 度揺らぎによって様々に変化することである。従って、統計的な議論をする際 には、現在のハローに至るまでの起こりうる形成過程を初期の密度揺らぎの情 報からモンテカルロ法により実現させる必要がある。また、個々のプロセスが モデル化されて入っているので、逆に銀河形成においてなにが重要かという物 理過程を明らかにしやすいという長所がある。ただし、インプットするプロセ スは、シミュレーションなどによってチェックされるべきものであり、シミュ レーションとは相補的な関係にある。

  3. モデル
  4. 今回のモデルは、Cole et al. (1994)をベースにし、UVによるガス加熱を 加えたものである。詳細は、Coleらの論文を参照していただきたい。このモデ ルは、まづダークハローの形成史をブロックモデルで与え、そこからハローの life time tlifeをそのハローがコラプスしてからそのハローを含 むように大きいハローがコラプスするまでの時間として定義する。さて、ハロー がコラプスすると、密度分布は等温(ρ∝r-2)になると仮定し、バ リオンガスも同様に分布するものとする。すると、冷却のタイムスケールと tlifeが丁度釣り合う半径が存在する。その半径を rcoolとし、その範囲内のガスはすぐに 104Kまで冷却 されるものとする。

    ここでUVの効果を考える。rcoolより外側ではUVはガスによる吸収 などの影響は受けないものとし、ここから内側に行くに従ってガスに吸収され、 ある半径 rUVのところで完全に吸収されるものとする。これを 「逆」Stromgren球近似によって解くと、

    より

    となることが分かる。ここで、α(Teq)は温度Teqでの 再結合係数、np, neはそれぞれ陽子、電子の数密度、 J-21は規格化されたUVの強さ、Rはvirial半径である。この rUVより内側のガスが冷え、星の材料になると仮定する。

    星形成率は、冷えたガスの量に比例するとし、ハローの質量に依存(冪型)し たタイムスケールを与える。また、超新星によるフィードバックを考え、星形 成率に比例して冷えたガスから再加熱されるガスの量を求める。比例係数はハ ローの質量に依存し、小質量天体ではフィードバックが良く効くように与える (銀河風に相当)。

    ダークハローが合体する時は、それぞれのハローが含む銀河がdynamical frictionによって中心にまで落ち込む時間スケールを考え、それが tlifeよりも短ければ銀河が合体し、長ければ銀河団のように一つ のハローの中に複数の銀河が存在する状況になる。

    以上のプロセスをすべてのハローについて解き、最終的に得られた銀河につい てそれぞれの星形成史を求め、種族合成により銀河の光度や色を求める。

  5. 結果
    1. UV背景輻射
    2. UV背景輻射が実際にどのように進化したかは詳細にはまだ分かっていない。 そこで、以下のモデルについて計算した。case(1): UVなし、case(2): 0 < z < 5 の間にUVが存在、case(3): 2 < z < 5の間にUVが存在、case(4): z < 2 で J∝(1+z)4, z > 2 で J∝(1+z)-1。UVの強度につ いては、J-21(z=2)=1, 100 の2通り計算した。観測的には J-21〜1 と言われているが、実際に星が形成される条件を考える と、我々の上の計算よりも厳しいと考えられるので、その場合は実効的に J-21を大きくしたことになり、必ずしも J-21=100 と いう条件が非現実的というわけではない。

    3. 光度関数と色分布
    4. J-21=100 の場合の光度関数を図1に、色分布を図2に示す。 J-21=1 の場合は J-21=100 の結果を非常に弱くした ものであるが、傾向は同じなのでここでは省略する。

      現在までUVが存在し続ける場合(case2)、矮小銀河スケールで数が減ることが わかる。また、色分布も赤い方にずれ、若い星が少なくなることが分かる。こ れは、UVの影響が矮小銀河スケールで特に強く、low redshiftでの星形成が抑 えられることによる。一方で、明るい銀河には殆ど影響は見られない。これは、 明るい銀河が小さい銀河の合体によって形成されるためと考えられる。

      z=2 でUVがなくなる場合(case3)は、銀河の数は殆ど変わらない。従って、こ の場合は光度関数からだけではUVの影響はわからないことになる。しかし、色 分布を見ると、UVがない場合に比べ、青くなっている。これは、UVがなくなっ て星形成が再び可能になったため、若い星が増えたからであると考えられる。

      連続的にUV強度が変わる場合(case4)は、明るい銀河の数は殆ど変わらないが、 矮小銀河スケールではcase(2)と同じ程度に減り、光度関数の傾きが緩やかに なっている。また、色分布も他の場合にくらべてかなり広がっている。これは、 連続的にUV強度が減っていくと、より大きい銀河からUVの影響から切り離され ていくため星形成が再開する時刻がハローの質量に依り、また矮小銀河への影 響が最後まで残るということに依る。この場合の結果は、観測結果にかなり似 た傾向を示している。

  6. 結論
  7. UVの存在は、明るい銀河には殆ど影響を与えず、矮小銀河に強く影響を与 えることがわかった。これは、UVの影響は大きい銀河に強く現われていた Chiba & Nath (1993)の結果と一見矛盾するが、我々のモデルでは大きい銀河 はhigh redshiftで形成された小さな銀河の合体により形成されるためである。 high redshiftではガスの密度が高いため、UVがあまり浸透せず、明るい銀河 のprogenitorが影響をうけないので明るい銀河も影響をうけないものと考えら れる。従って、z=0 での観測量には銀河の合体(merger)が大きな役割を果たし ていることになる。これは、CDMモデルからは自然な結果と言えるであろう。

    UVの進化の違いに結果が大きく影響されることから、これらの z 依存性を見 れば、光度関数、色分布から逆にUV背景輻射の進化に制限を与えられる可能性 がある。但し、星形成がどのように行われているか、ということに結果は依存 しているので、今後は星形成の条件についてより詳しく調べる必要がある。ま た、色分布は化学進化によっても変わるため、化学進化を取り入れていく予定 である。

References

Chiba, M. & Nath, B.B., 1993, ApJ, 436, 618

Cole. S., Aragon-Salamanca, A., Frenk, C.S., Navarro, J.F. & Zepf, S.E., 1994, MNRAS, 271, 781

Nagashima, M., Gouda, N. & Sugiura, N., in preparation

図1。光度関数。(a) Bバンド。(b) Kバンド。実線、点線、短破線、長破線は それぞれcase (1) UVなし、(2)0 < z < 5 でUVが存在、(3)2 < z < 5 でUVが 存在、(4)J∝(1+z)γ, γ=4 (z<2)、γ=-1 (z>2)。 J-21=100。

図2。色分布。(a)-19.5 < MB < -17、(b)MB < -19.5。 線種は図1と同じ。


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