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線型領域

ここでは、考えている領域の大きさが horizon より十分小さい、物質の速度が 光速に比べ十分小さい、という Newton 近似、及び考えている領域の大きさが、 考えている物質の平均自由行程より十分大きい、という流体近似が成り立つ場合 を考える。銀河や銀河団スケールでは、CDMモデルで recombination 以降を考え る限り、以上の仮定は十分成り立つと考えてよい。 流体近似が使えるのは微小な密度揺らぎが自己重力でジワジワと集まって くるような場合のみであり、ひとたび collapse してしまうとDM粒子の速度が空 間の一価関数ではなくなるため近似が破綻する。このような場合には、原理的に は Boltzmann 方程式に戻って考えなければならない。

基本となる流体力学の方程式(連続の式、Euler方程式、Poisson方程式)は、

$\displaystyle \dot{\rho}+\nabla\cdot\rho{\bf v}$ $\textstyle =$ $\displaystyle 0$ (3.25)
$\displaystyle {\bf v}+({\bf v}\cdot\nabla){\bf v}$ $\textstyle =$ $\displaystyle -\nabla\Psi-\frac{1}{\rho}\nabla p$ (3.26)
$\displaystyle \Delta\Psi$ $\textstyle =$ $\displaystyle 4\pi G\rho$ (3.27)

であるが、これを膨張するbackground ( ${\bf r}=a(t){\bf x}$$\bf r$は物理 的座標、$\bf x$ は共動[comoving]座標、$a(t)$は scale factor)では座標変換 により以下のように書ける。
$\displaystyle \dot{\rho}-H{\bf x}\cdot\nabla\rho+\frac{1}{a}\nabla(\rho{\bf u})$ $\textstyle =$ $\displaystyle 0$ (3.28)
$\displaystyle \dot{\bf u}-H{\bf x}\cdot\nabla{\bf u}+\frac{1}{a}({\bf u}\cdot\nabla){\bf u}$ $\textstyle =$ $\displaystyle \frac{1}{a}\nabla\phi-\frac{1}{a\rho}\nabla p$ (3.29)
$\displaystyle \Delta\Phi$ $\textstyle =$ $\displaystyle 4\pi G\rho a^2$ (3.30)

ここで$\nabla$${\bf x}$による微分、${\dot{}}$$t$による偏微分を表わす。 また、$\rho$$({\bf x},t)$における密度、$H=\dot{a}/a$$p$は圧力、 $\phi$は重力ポテンシャル、${\bf u}$は速度( $\equiv a\dot{\bf x}$)である。 次に、密度がほぼ一様の宇宙初期の状態を考え、 $\rho({\bf
x},t)=\rho_0(t)+\delta\rho({\bf x},t)$ として一次の摂動を調べる。速度場 ${\bf u}$は既に微小量である。密度コントラストとして $\delta({\bf
x},t)\equiv\delta\rho/\rho_0$ を定義すると、$\delta\ll 1$の場合、
$\displaystyle \dot{\delta}+\frac{1}{a}\nabla\cdot{\bf u}$ $\textstyle =$ $\displaystyle 0$ (3.31)
$\displaystyle \dot{\bf u}+H{\bf u}$ $\textstyle =$ $\displaystyle \frac{1}{a}\nabla\phi-\frac{c_{\rm S}^2}{a}\nabla\delta$ (3.32)
$\displaystyle \Delta\phi$ $\textstyle =$ $\displaystyle 4\pi G\rho_{0}\delta a^2$ (3.33)

となる。ここで$c_{\rm S}$は音速であり、 $c_{\rm S}^2=({\rm d}p/{\rm
d}\rho)_0$である。上式を$\delta$のみの式に変形すると、
\begin{displaymath}
\ddot{\delta}+2H\dot{\delta}=4\pi G\rho_0\delta+\frac{c_{\rm S}^2}{a^2}\Delta\delta
\end{displaymath} (3.34)

となる。これを$\delta$についての運動方程式とみなすと、宇宙膨張による第二 項が摩擦項として効いていることに注意。つまり、曲率や宇宙項が効きだ し、膨張率が相対的に大きくなると、揺らぎの成長を遅くする効果がある。従っ て、このような宇宙モデルでは、現在観測されているような構造を作るためには、 high-$z$で既に構造を作っておかなければいけないということを意味する。

次に、摂動が平面波 $\delta\propto\exp(\omega t+i{\bf k\cdot x})$として 分散関係を導く。揺らぎが不安定、即ち成長するための条件は$\omega>0$である。 代入すると、この条件は

\begin{displaymath}
k^2<k_{\rm J}^2\equiv\frac{a^2}{c_{\rm S}^2}4\pi G\rho_0=\frac{3}{2}\Omega H^2\frac{a^2}{c_{\rm S}^2}
\end{displaymath} (3.35)

あるいは
\begin{displaymath}
\lambda>\lambda_{\rm J}=\frac{2\pi}{k_{\rm J}}=\sqrt{\frac{\pi c_{\rm S}}{G\rho_0 a^2}}
\end{displaymath} (3.36)

となる。ここで $\lambda_{\rm J}$はJeans波長と呼ばれ、これより短いスケール の揺らぎは成長できない。この条件は自己重力が圧力勾配より強いことに相当する。

ここで、 $\lambda_{\rm J}$が時間と共にどのように変化するかを見る。 radiation dominant $(z\mathrel{\mathchoice {\vcenter{\offinterlineskip\halign{\hfil
$\displaystyle ...では、 $c_{\rm S}\simeq c/\sqrt{3}$なので、 $\lambda_{\rm J}\simeq L_{\rm H}/\sqrt{3}$となり、horizon 半径とほぼ等し くなる($L_{\rm H}$は comoving での horizon 半径)。つまり、horizon より小 さなスケールの揺らぎは成長できない。

equal time から recombination までの間( $10^3\mathrel{\mathchoice {\vcenter{\offinterlineskip\halign{\hfil
$\displaystyl...
...offinterlineskip\halign{\hfil$\scriptscriptstyle ...)は、CDM は定 義により$p\sim 0$であるので、 $\lambda_{\rm J}\sim 0$となり、ほぼ全てのス ケールで成長できる。しかし、baryon に関しては、エネルギーは非相対論的物 質が支配しても、圧力は輻射が支配しているため、 $c_{\rm S}^2\propto
a^{-1}$となり、 $\lambda_{\rm J}\propto
a^{-1/2}/\dot{a}\simeq\mbox{const.}$となる。

最後に、recombination 以降( $z\mathrel{\mathchoice {\vcenter{\offinterlineskip\halign{\hfil
$\displaystyle ...)を考える。baryon が感じる圧力は baryon 自身が生み出すので、 $p\propto\rho^{5/3}$となり、音速は $c_{\rm
J}^2\propto a^{-1}$、Jeans波長は $\lambda_{\rm J}\propto a^{-1/2}$となる。

実際には、diffusion damping などの効果で、baryon の小スケールの揺 らぎは慣らされるが、ここでは割愛する。

次に、equal time 以降の揺らぎが時間と共にどのように成長するかを調べる。 時間発展の式(3.10)に於いて$c_{\rm S}=0$と置いたものが基本方程 式となる。簡単のためにE-dS宇宙( $\Omega_0=1,\Omega_\Lambda=0$)を考えると、 $H=2/3t$であるから

\begin{displaymath}
\ddot{\delta}+\frac{4}{3t}\delta-\frac{2}{3t^{2}}\delta=0
\end{displaymath} (3.37)

となり、 $\delta\propto t^{\alpha}$と置くと
\begin{displaymath}
\alpha=\frac{2}{3}, -1
\end{displaymath} (3.38)

と二階微分方程式であることより二つの階が得られ、一般解が
\begin{displaymath}
\delta(t)=C_1 t^{2/3}+C_2 t^{-1}
\end{displaymath} (3.39)

と二つのモードの重ね合わせで書けることになる。ここで第一項が成長 (growing)モード、第二項が減衰(decaying)モードである。以下では一般に growing モードを$D(t)$と書く。E-dSの場合、scale factor で書くと$D\propto
a$となる。なお、super horizon scale の揺らぎは相対論的取り扱いによって $D\propto a^2$となることがわかっている。

なお、一般に decaying mode は $\delta\propto H$ となる。従って、 Wronskian を用いて growing mode も求めることができる ( $\Omega_{\Lambda}=0$の場合は解析解がある)。

次に速度揺らぎについて調べる。連続の式(3.7)とPoisson方 程式(3.9)、及び線型段階での密度揺らぎが $\dot{\delta}=(\dot{D}/D)\delta$と書けることから、

\begin{displaymath}
{\bf u}=-\frac{fH}{4\pi G\rho_0 a}\nabla\phi
\end{displaymath} (3.40)

となる。ここで
\begin{displaymath}
f\equiv\frac{\dot{D}}{D}\frac{a}{\dot{a}}\simeq\Omega^{0.6}
\end{displaymath} (3.41)

は growth factor と呼ばれる。これは、$\delta$$\bf u$が観測から求まれば、 $\Omega_0$が決まることを示している。これは渦度が0の場合に成り立つが、渦 度は decaying mode しかなく、線型段階では成り立っていると考えて良い。


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NAGASHIMA Masahiro 平成17年2月22日