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幾何学的テスト

密度パラメータ$\Omega$は物質の量を規定するので時空の幾何学と密接に結びつ いている。この点に着目し、何らかの手段で幾何学を測定し宇宙論パラメータを 決定する方法を幾何学的テストと呼んでいる。

さて、幾何学を決めるためには距離を定義しなければならない。良く知られてい る重要な距離として、角径距離(angular-diameter distance)と光度距離 (luminosity distance)がある。角径距離 $l_{\rm ad}$は天体の大きさDと見込 む角度$\theta$から与えられる距離で、 $l_{\rm ad}\equiv D/\theta$で与えら れ、赤方偏移と $l_{\rm ad}=r/(1+z)$の関係にある。一方、光度距離$l_{\rm
L}$は、天体の光度Lと観測されるflux fから $l_{\rm L}\equiv\sqrt{L/4\pi
f}$で定義される。これは $l_{\rm L}=(1+z)r$という関係になり、$z\ll 1$では 角径距離と一致するが、遠方では振舞いが異なってくる。なお、rは、良く知 られているように、 $\chi\equiv\int_{0}^{r}{\rm d}r/\sqrt{1-Kr^2}$を通じて、

\begin{displaymath}r=\left\{
\begin{array}{ll}
\displaystyle{\frac{c}{H_0\sqrt...
...qrt{\vert k_0\vert}}{c}\chi\right)}& k_0<0
\end{array}\right.
\end{displaymath} (14)

という関係がある。従って、これらの距離と赤方偏移の関係が得られれば、宇宙 論パラメータを決定できる。

さて、今大きさが既知の天体があるとしよう。よく用いられるのは、電波銀河の core radius Dである。赤方偏移zにある電波銀河の core が、見込む角 $\theta$で観測された場合、角径距離を用いて $\theta=D/l_{\rm ad}=D(1+z)/r$ となり、rを決められる。

次に、光度が既知の天体を考える。例えば、Ia型超新星の光度曲線から光度を求 めることができる。ある波長領域での光度$\delta L$と観測される flux $\delta f$とは $\delta f=\delta L/4\pi r^2 (1+z)^2$の関係にあるので、超新 星の赤方偏移を観測すればrが決まる。

また、 $l_{\rm ad}$$l_{\rm
L}$を組合せる方法もある。銀河の光度分布を仮 定すると、単位視野の中での銀河の等級ごとの個数を求めることができる。観測 的には、ある方向を深く見て、写った銀河の数を数えればよい。銀河計数 (galaxy number counts)とか個数-等級関係(number-magnitude relation)などと 呼ばれる。

これら幾何学的テストには幾つかの問題点がある。それは、宇宙論パラメータと 時空の幾何学自体は密接に関係しているが、その幾何学を測る probe となる天 体に対し、何らかの仮定(あるいはモデル)をおかざるを得ないことである。また、 宇宙論パラメータによる違いは十分遠方( $z\mathrel{\mathchoice {\vcenter{\offinterlineskip\halign{\hfil
$\displaystyle ...)でないと現れてこない。従っ て、それだけ観測的にも難しくなる。さらに、それだけ遠方になると、天体の進 化効果も無視できなくなることが多い。例えば、現在の典型的な銀河と、z>1での銀河は異なった特徴を示すと考えられている。そこで、幾何学的テストを用 いて信頼できる結果を得るには、probe となる天体について物理的に明確な知識 を得ることが必須となる。つまり、その天体自身についてより詳細な研究が必要 である、ということである。



NAGASHIMA Masahiro
2000-10-23