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線型領域

次に、密度がほぼ一様の宇宙初期の状態を考え、一次の摂動を調べる。速度場 ${\u }$は既に微小量であることに注意し、また密度コントラストとして $\delta({{\mbox{\boldmath$x$}}},t)\equiv\rho_1/\rho_0$ を定義すると、$\delta\ll 1$の場合、

    $\displaystyle \dot{\rho_1}+3H\rho_1+\frac{\rho_0}{a}\nabla\cdot\u =
\frac{1}{a^...
...{\partial t}\left(\frac{\rho_1}{\rho_0}\right)+\frac{\rho_0}{a}\nabla\cdot\u =0$  
    $\displaystyle \to\dot{\delta}+\frac{1}{a}\nabla\cdot\u =0$ (3.70)
    $\displaystyle \dot{\u }+H{\u }=-\frac{1}{a}\nabla\phi-\frac{1}{a\rho_0}\nabla
p...
...){$\cdot$}
\put(8,3){$\cdot$}
\put(6,4){\circle{14}}
\end{picture}\nabla p_0=0)$  
    $\displaystyle \qquad\qquad=-\frac{1}{a}\nabla\phi-\frac{c_S^2}{a}\nabla\delta$ (3.71)
    $\displaystyle \Delta\phi=4\pi G\rho_{0}\delta a^2$ (3.72)

となる。ここで$c_{\rm S}$は音速であり、 $c_{\rm S}^2=p_1/\rho_1$である。上 式を$\delta$のみの式に変形すると、
\begin{displaymath}
\ddot{\delta}=-2H\dot{\delta}+4\pi G\rho_0\delta+\frac{c_{\rm S}^2}{a^2}\Delta\delta
\end{displaymath} (3.73)

となる。これを$\delta$についての運動方程式とみなし、式を解釈してみよう。 右辺第一項は、宇宙膨張がいわば摩擦項として効いていることを示している。宇 宙が膨張することによって、密度揺らぎの成長が抑えられている。また、曲 率や宇宙項が効きだし、膨張率が相対的に大きくなると、揺らぎの成長を遅くす る効果がある。従って、このような宇宙モデルでは、現在観測されている ような構造を作るためには、high-$z$で既に構造を作っておかなければいけないと いうことを意味する。次に第二項であるが、これは重力により揺らぎを成長させ る「力」である。第三項は、圧力により、揺らぎが上に凸の部分が成長を抑えら れることを意味している

次に、摂動が平面波 $\delta\propto\exp(\omega t+i{\k\cdot{\mbox{\boldmath$x$}}})$として分散 関係を導く($\k $はcomoving)。揺らぎが不安定、即ち成長するための条件は $\omega>0$である。代入すると、この条件は

\begin{displaymath}
k^2<k_{\rm J}^2\equiv\frac{a^2}{c_{\rm S}^2}4\pi G\rho_0=\frac{3}{2}\Omega H^2\frac{a^2}{c_{\rm S}^2}
\end{displaymath} (3.74)

あるいは
\begin{displaymath}
\lambda>\lambda_{\rm J}=\frac{2\pi}{k_{\rm J}}=\sqrt{\frac{\pi c_{\rm S}^2}{G\rho_0 a^2}}\simeq\frac{c_S}{aH}
\end{displaymath} (3.75)

となる($\lambda$はcomoving)。ここで $\lambda_{\rm J}$はJeans波長と呼ばれ、 これより短いスケールの揺らぎは成長できない。この条件は自己重力が圧力勾配 より強いことに相当する(スケールの違いによる揺らぎの成長の違いは後述)。

ここで、 $\lambda_{\rm J}$が時間と共にどのように変化するかを見る。 radiation dominant $(z\mathrel{\mathchoice {\vcenter{\offinterlineskip\halign{\hfil
$\displaystyle ...では、 $c_{\rm S}\simeq c/\sqrt{3}$なので ( $p=\rho c^2/3,\to c_S^2=c^2/3$)、 $\lambda_{\rm J}\simeq L_{\rm
H}/\sqrt{3}$となり、horizon 半径とほぼ等しくなる($L_{\rm H}$は comoving での horizon 半径)。つまり、horizon より小さなスケールの揺らぎは成長でき ない。

equal time から recombination までの間( $10^3\mathrel{\mathchoice {\vcenter{\offinterlineskip\halign{\hfil
$\displaystyl...
...offinterlineskip\halign{\hfil$\scriptscriptstyle ...)は、CDM は定 義により$p\sim 0$であるので、 $\lambda_{\rm J}\sim 0$となり、ほぼ全てのス ケールで成長できる。しかし、baryon に関しては、エネルギーは非相対論的物 質が支配しても、圧力は輻射が支配しているため、 $c_{\rm S}^2\propto
a^{-1}(\propto T)$となり、 $\lambda_{\rm J}\propto
a^{-1/2}/\dot{a}\simeq\mbox{const.}$となる。

最後に、recombination 以降( $z\mathrel{\mathchoice {\vcenter{\offinterlineskip\halign{\hfil
$\displaystyle ...)を考える。baryon が感じる圧力は baryon 自身が生み出すので、 $p\propto\rho^{5/3}$となり、音速は $c_{\rm
S}\propto a^{-1}$、Jeans波長は $\lambda_{\rm J}\propto a^{-1/2}$となる。

実際には、diffusion damping などの効果で、baryon の小スケールの揺 らぎは慣らされるが、ここでは割愛する。

次に、equal time 以降の揺らぎが時間と共にどのように成長するかを調べる。 時間発展の式(3.45)に於いて$c_{\rm S}=0$と置いたものが基本方程 式となる。簡単のためにE-dS宇宙( $\Omega_0=1,\Omega_\Lambda=0$)を考えると、 $H=2/3t$であるから

\begin{displaymath}
\ddot{\delta}+\frac{4}{3t}\delta-\frac{2}{3t^{2}}\delta=0
\end{displaymath} (3.76)

となり、 $\delta\propto t^{\alpha}$と置くと
\begin{displaymath}
\alpha=\frac{2}{3}, -1
\end{displaymath} (3.77)

と二階微分方程式であることより二つの階が得られ、一般解が
\begin{displaymath}
\delta(t)=C_1 t^{2/3}+C_2 t^{-1}
\end{displaymath} (3.78)

と二つのモードの重ね合わせで書けることになる。ここで第一項が成長 (growing)モード、第二項が減衰(decaying)モードである。以下では一般に growing モードを$D(t)$と書く。E-dSの場合、scale factor で書くと$D\propto
a$となる。なお、super horizon scale の揺らぎは相対論的取り扱いによって $D\propto a^2$となることがわかっている。

なお、一般に decaying mode は $\delta\propto H$ となる。従って、 Wronskian を用いて growing mode も求めることができる ( $\Omega_{\Lambda}=0$の場合は解析解がある)。

次に速度揺らぎについて調べる。連続の式(3.42)とPoisson方 程式(3.44)、及び線型段階での密度揺らぎが $\dot{\delta}=(\dot{D}/D)\delta$と書けることから、

\begin{displaymath}
\nabla\cdot\u =-\frac{fH}{4\pi G\rho_0 a}\Delta\phi
\end{displaymath} (3.79)

となる。ここで
\begin{displaymath}
f\equiv\frac{\dot{D}}{D}\frac{a}{\dot{a}}\simeq\Omega^{0.6}
\end{displaymath} (3.80)

は growth factor と呼ばれる。これを積分すると、一般には
\begin{displaymath}
\u =-\frac{fH}{4\pi G\rho_0 a}\nabla\phi+\nabla\times{\mbox{\boldmath$\omega$}}
\end{displaymath} (3.81)

となるが、渦度は decaying mode しかなく、線型段階では無視して良いため
\begin{displaymath}
{\u }=-\frac{fH}{4\pi G\rho_0 a}\nabla\phi
\end{displaymath} (3.82)

と置いてよい。これらは、$\delta$$\u $が観測から求まれば、$f$を通じて $\Omega_0$が決まることを示している。

最後に、線型段階での重力ポテンシャルの進化について触れておく。Einstein-de Sitter宇宙 では、 $\rho_0\propto a^{-3}, \delta\propto a$より、

\begin{displaymath}
\phi\propto\rho_0\delta a^2\propto a^0
\end{displaymath} (3.83)

となり、重力ポテンシャルは時間に依存しない。宇宙項が効き出し、揺らぎの成 長が鈍くなると、むしろ重力ポテンシャルは浅くなる(これが Integrated Sachs-Wolfe効果の起源である)。


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NAGASHIMA Masahiro
2009-03-12