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Redshift distortion

SDSS計画のような銀河サーベイは、奥行き方向の分布については赤方偏移が座標 となっている。観測される赤方偏移には Hubble flow のみでなく、個々の銀河 の固有速度が含まれる。固有速度は速度揺らぎであるので、5.1 で述べたように、その大きさは宇宙論パラメータに依存する。一方、視線に垂直 な方向の分布には無関係であるので、power spectrum の方向依存性を測れば、 宇宙論パラメータを決めることができる。

ここで、実空間座標を$\bf r$、赤方偏移空間での座標を${\bf s}$と置く。固有速度の 視線方向成分は、視線方向の単位ベクトルを $\hat{{\bf r}}$として $u({\bf r})={\bf v}\cdot\hat{{\bf r}}$と書ける。以下、簡単のためH=1となる単位系を用い る。実空間と赤方偏移空間の関係は、

\begin{displaymath}{\bf s}={\bf r}\left[1+\frac{u({\bf r})-u({\bf0})}{r}\right]
\end{displaymath} (40)

で表される。実空間での密度 $\rho^{\rm R}$と赤方偏移空間での密度 $\rho^{\rm
S}$の関係は、質量保存 $\rho^{\rm S}{\rm d}^3s=\rho^{\rm R}{\rm d}^3r$より、 $\rho^{\rm S}=\vert\partial{\bf s}/\partial{\bf r}\vert^{-1}\rho^{\rm R}$と表される。この Jacobian を求めると、

\begin{displaymath}{\rm d}^3s=\left[1+\frac{u({\bf r})-u({\bf0})}{r}\right]^2\left[1+\frac{{\rm d}u({\bf r})}{{\rm d}r}\right]{\rm d}^3 r
\end{displaymath} (41)

となり、 $U=u({\bf r})-u({\bf0})$とおくと、密度は

\begin{displaymath}\rho^{\rm S}=\left[1-2\frac{U}{r}-\frac{{\rm d}U}{{\rm d}r}\right]\rho^{\rm R}
\end{displaymath} (42)

となる。ここで、$U/r\ll 1$であるので、一次までを取った。さらに、十分遠方 の観測者に対しては、 $U/r\ll {\rm d}U/{\rm d}r$となることを用いると、密度コントラ ストは

\begin{displaymath}\delta^{\rm S}=\delta^{\rm R}-\frac{{\rm d}U}{{\rm d}r}
\end{displaymath} (43)

と書ける。

次に線型理論を用いると、連続の式(18)より、

\begin{displaymath}\nabla_{{\bf r}}\cdot{\bf u}=-Hf\delta
\end{displaymath} (44)

を得る。さらにPoisson方程式(20)を用いると、

\begin{displaymath}{\bf u}=-Hf\frac{\nabla_{{\bf r}}\phi}{4\pi G\rho_0}=-Hf\nabla_{{\bf r}}[\Delta^{-1}\delta]
\end{displaymath} (45)

となる。ここで注意すべきことは、上式の$\delta$は重力を規定する質量(CDM)分布を 表しているが、観測されるのは銀河分布 $\delta_{\rm gal}$であることである。 これらをつなぐ最も簡単な関係式として、

\begin{displaymath}\delta_{\rm gal}=b\delta
\end{displaymath} (46)

が仮定される。ここでbは bias parameter と呼ばれる。ここで $\beta\equiv
f/b$と定義すると、速度揺らぎは

\begin{displaymath}{\bf u}=-H\beta\nabla_{{\bf r}}\left[\Delta^{-1}\delta_{\rm gal}\right]
\end{displaymath} (47)

となる。ここで

\begin{displaymath}\hat{{\bf r}}\cdot{\bf u}=-H\beta\frac{\partial}{\partial r}(\Delta^{-1}\delta^{\rm R})
\end{displaymath} (48)

であるから、

\begin{displaymath}\frac{{\rm d}U}{{\rm d}r}=-H\beta\left(\frac{\partial}{\partial r}\right)^2(\Delta^{-1}\delta^{\rm R})
\end{displaymath} (49)

となり、これを代入すると

\begin{displaymath}\delta^{\rm S}=\left[1+\beta\left(\frac{\partial}{\partial r}\right)^2\Delta^{-1}\right]\delta^{\rm R}
\end{displaymath} (50)

という関係が得られる。さらにこれをFourier変換すると、

\begin{displaymath}\delta_{{\bf k}}^{\rm S}=[1+\beta\mu_{{\bf k}}^2]\delta_{{\bf k}}^{\rm R}
\end{displaymath} (51)

(ここで $\mu_{{\bf k}}={\bf k}\cdot{\bf r}/kr$)となることから、赤方偏移空間でのpower spectrum は

\begin{displaymath}P^{\rm S}({\bf k})=[1+\beta\mu_{{\bf k}}^2]^2P^{\rm R}(k)
\end{displaymath} (52)

となる。 $P^{\rm R}(k)$は等方なので、 $P^{\rm S}({\bf k})$の角度依存性を調べれ ば、 $\beta=f(\Omega)/b$が求まる。最近では、弱非線型理論や観測者が近い場 合などへも拡張されている。またmultipole展開をすることで、より見やすい形 に書くこともなされている。


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NAGASHIMA Masahiro
2000-10-23