next up previous
Next: 密度揺らぎの統計的性質 Up: 構造形成 Previous: 構造形成

  
密度揺らぎの成長則

ここでは、考えている領域の大きさが horizon より十分小さい、物質の速度が 光速に比べ十分小さい、という Newton 近似、及び考えている領域の大きさが、 考えている物質の平均自由行程より十分大きい、という流体近似が成り立つ場合 を考える。銀河や銀河団スケールでは、所謂 cold dark matter (CDM)モデルで recombination 以降( $z\mathrel{\mathchoice {\vcenter{\offinterlineskip\halign{\hfil
$\displaystyle ...)では、以上の仮定は十分成り立つと考えてよ い。

基本となる流体力学の方程式(連続の式、Euler方程式、Poisson方程式)は、膨張 するbackground ( ${\bf r}=a(t){\bf x}$$\bf r$は物理的座標、$\bf x$は共 動[comoving]座標、a(t)は scale factor)では以下のように書ける。

$\displaystyle \dot{\rho}-H{\bf x}\cdot\nabla\rho+\frac{1}{a}\nabla(\rho{\bf u})$ = 0 (15)
$\displaystyle \dot{\bf u}-H{\bf x}\cdot\nabla{\bf u}+\frac{1}{a}({\bf u}\cdot\nabla){\bf u}$ = $\displaystyle \frac{1}{a}\nabla\phi-\frac{1}{a\rho}\nabla p$ (16)
$\displaystyle \Delta\phi$ = $\displaystyle 4\pi G\rho a^2$ (17)

ここで$\nabla$$\bf x$による微分、${\dot{}}$tによる偏微分を表わす。 また、$\rho$ $({\bf x},t)$における密度、 $H=\dot{a}/{a}$pは圧力、 $\phi$は重力ポテンシャル、${\bf u}$は速度( $\equiv a\dot{\bf x}$)である。 次に、密度がほぼ一様の宇宙初期の状態を考え、 $\rho({\bf
x},t)=\rho_0(t)+\delta\rho({\bf x},t)$ として一次の摂動を調べる。密度コ ントラストとして $\delta({\bf x},t)\equiv\delta\rho/\rho_0$ を定義すると、 $\delta\ll 1$の場合、
   
$\displaystyle \dot{\delta}+\frac{1}{a}\nabla(\delta{\bf u})$ = 0 (18)
$\displaystyle (\delta{\bf u})\dot{}+H\delta{\bf u}$ = $\displaystyle \frac{1}{a}\nabla\delta\phi-\frac{c_{\rm S}^2}{a}\nabla\delta$ (19)
$\displaystyle \Delta\delta\phi$ = $\displaystyle 4\pi G\delta\rho_0a^2$ (20)

となる。ここで$c_{\rm S}$は音速であり、 $c_{\rm S}^2=({\rm d}p/{\rm
d}\rho)_0$である。上式を$\delta$のみの式に変形すると、

 \begin{displaymath}\ddot{\delta}+2H\dot{\delta}=4\pi G\rho_0\delta+\frac{c_{\rm S}^2}{a^2}\Delta\delta
\end{displaymath} (21)

となる。

次に、摂動が平面波 $\delta\propto\exp(\omega t+i{\bf k\cdot x})$として 分散関係を導く。揺らぎが不安定、即ち成長するための条件は$\omega>0$である。 代入すると、この条件は

\begin{displaymath}k^2<k_{\rm J}^2\equiv\frac{a^2}{c_{\rm S}^2}4\pi G\rho_0=\frac{3}{2}\Omega H^2\frac{a^2}{c_{\rm S}^2}
\end{displaymath} (22)

あるいは

\begin{displaymath}\lambda>\lambda_{\rm J}=\frac{2\pi}{k_{\rm J}}=\sqrt{\frac{\pi c_{\rm S}}{G\rho_0 a^2}}
\end{displaymath} (23)

となる。ここで $\lambda_{\rm J}$はJeans波長と呼ばれ、これより短いスケール の揺らぎは成長できない。この条件は自己重力が圧力勾配より強いことに相当する。

ここで、 $\lambda_{\rm J}$が時間と共にどのように変化するかを見る。 radiation dominant $(z\mathrel{\mathchoice {\vcenter{\offinterlineskip\halign{\hfil
$\displaystyle ...では、 $c_{\rm S}\simeq c/\sqrt{3}$なので、 $\lambda_{\rm J}\simeq L_{\rm H}/\sqrt{3}$となり、horizon 半径とほぼ等し くなる($L_{\rm H}$は comoving での horizon 半径)。つまり、horizon より小 さなスケールの揺らぎは成長できない。

equal time から recombination までの間( $10^3\mathrel{\mathchoice {\vcenter{\offinterlineskip\halign{\hfil
$\displaystyl...
...offinterlineskip\halign{\hfil$\scriptscriptstyle ...)は、CDM は定 義により$p\sim 0$であるので、 $\lambda_{\rm J}\sim 0$となり、ほぼ全てのス ケールで成長できる。しかし、baryon に関しては、エネルギーは非相対論的物 質が支配しても、圧力は輻射が支配しているため、 $c_{\rm S}^2\propto
a^{-1}$となり、 $\lambda_{\rm J}\propto
a^{-1/2}/\dot{a}\simeq\mbox{const.}$となる。

最後に、recombination 以降( $z\mathrel{\mathchoice {\vcenter{\offinterlineskip\halign{\hfil
$\displaystyle ...)を考える。baryon が感じる圧力は baryon 自身が生み出すので、 $p\propto\rho^{5/3}$となり、音速は $c_{\rm
J}^2\propto a^{-1}$、Jeans波長は $\lambda_{\rm J}\propto a^{-1/2}$となる。

実際には、diffusion damping などの効果で、baryon の小スケールの揺 らぎは慣らされるが、ここでは割愛する。

次に、equal time 以降の揺らぎが時間と共にどのように成長するかを調べる。 時間発展の式(21)に於いて $c_{\rm S}=0$と置いたものが基本方程 式となる。簡単のためにE-dS宇宙( $\Omega_0=1,\Omega_\Lambda=0$)を考えると、 二階微分方程式であるから

\begin{displaymath}\delta(t)=C_1 t^{2/3}+C_2 t^{-1}
\end{displaymath} (24)

と二つのモードが出てくる。ここで第一項が成長(growing)モード、第二項が減 衰(decaying)モードである。以下では一般に growing モードをD(t)と書く。 E-dSの場合、scale factor で書くと $D\propto a$となる。なお、super horizon scale の揺らぎは相対論的取り扱いによって $D\propto a^2$となることがわかっ ている。

次に速度揺らぎについて調べる。連続の式(18)とPoisson方 程式(20)、及び線型段階での密度揺らぎが $\dot{\delta}=(\dot{D}/D)\delta$と書けることから、

\begin{displaymath}{\bf u}=-\frac{fH}{4\pi G\rho_0 a}\nabla\phi
\end{displaymath} (25)

となる。ここで

\begin{displaymath}f\equiv\frac{\dot{D}}{D}\frac{a}{\dot{a}}\simeq\Omega^{0.6}
\end{displaymath} (26)

は growth factor と呼ばれる。これは、$\delta$${\bf u}$が観測から求まれば、 $\Omega_0$が決まることを示している。


next up previous
Next: 密度揺らぎの統計的性質 Up: 構造形成 Previous: 構造形成
NAGASHIMA Masahiro
2000-10-23